私は伝統文化に囲まれた京都で生まれて育ちました。その後、歴史の深いイタリアのミラノでデザインを学び、長年デザイン業界で活動してきました。高度経済成長期に生まれた世代であり、地球環境の異変を自然災害という形で体験しその経験が創作活動に大きな影響を与えています。創造の過程において地球の資源を利用することが不可避であると理解しつつも、その選択における責任とカルマの解消を模索しています。私の作品は、地球との共存における解決案を次世代のための現代の最重要課題と捉え、現在多用されている環境悪化につながる素材を天然素材に代替し、生活スタイルに落とし込み、作品を通じてそのメッセージを発信しています。絶望と希望、破壊と再生という揺れ動く時代の中で、人と社会に光をもたらし、心に火を灯すような作品を探求し続けています。作品は、地球環境への配慮と未来へのビジョンを融合させた、独自の視点と美学を反映しています。次世代に向けた環境意識の高いデザインとクリエイティブな表現で、常に新しい挑戦を続けています。

ここ10年、私はヘンプ(大麻の茎から作られた繊維)を主な素材として作品を作り続けてきました。ヘンプは、人類の歴史において非常に古くから利用されている植物であり、その歴史は約一万年前にまで遡ります。紀元前の古代中国やエジプトでは、繊維や紙の原料、さらには衣類や食料としても利用されてきました。強靭な繊維であるため、中世ヨーロッパでは船の帆やロープにも使われ、農業においても重要な作物として奨励されていました。また、アメリカでは、ジョージ・ワシントンやトーマス・ジェファーソンといった指導者たちがヘンプ栽培を推奨しており、独立戦争時にはその栽培が広く行われていたという歴史があります。

ヘンプは植物分類上英名名称:カンナビス・サティバと呼ばれる植物で、各国の法律によって異なりますが、アメリカ・カナダではTHC成分(覚醒成分)の割合が0.3%以下の品種を「ヘンプ」と定義されています。THC成分10~20%を超えるものを「マリファナ」とされています。産業用として栽培・利用されているヘンプ繊維の元となる茎には、THC成分はほとんど含まれていません。

しかし、20世紀に入ると、ヘンプにはマリファナに似た麻薬成分が微量に含まれているため、マリファナの規制とともに、一緒に規制されてきました。そして近年において、その誤解が解け、地球に優しい素晴らしい植物であることが再認識され始めています。

ヘンプの栽培は、土壌を改善し、農薬や除草剤の使用を減少させる効果があります。また、ヘンプから得られる製品は、バイオプラスチック、バイオ燃料、建築材料、医薬品など、多岐にわたります。綿と比較してもその差は歴然で、綿よりも水の使用量が少なく育ち、2倍の収穫量があり、ヘンプ繊維は綿より4倍の耐久性があります。綿は農薬を使用し土地を汚染するのに対し、ヘンプは浄化・土壌改良に貢献します。さらに、ヘンプシードは高タンパク質でオメガ3脂肪酸を豊富に含み、スーパーフードとしての評価も高まっています。1年草であるため、竹や木材よりも成長と収穫の期間が著しく早いということで、ヘンプは日本でも古来から生活と文化に深く根ざした植物でした。

日本では、ヘンプは神道の儀式や祭りにおいても重要な役割を果たしてきました。神社のしめ縄やお守り、祭りの衣装などに使われるヘンプは、清めや結界を意味し、神聖な存在として崇められてきました。このような文化的背景を持つヘンプは、日本人にとって古来から精神の拠り所となり特別な意味を持ちます。日本の最高峰の伊勢神宮のお札を「神宮大麻」と呼ぶところからも日本文化との関わりの深さが伺えます。しかしながら、現代ではこれらの史実を知る人が少なくなってきているのも事実です。

私はヘンプを作品に起用することで人々の認識と理解が深まり、さらに利用が促進されることで地球環境が少しでも良くなっていくと信じています。七世代先の子孫たちが笑顔で過ごせる未来のために、人と地球が共存できる作品を模索し、次世代への贈り物となるような新しい価値提案を目指しています。